「いい人がいないんだよね。」
この言葉はとてもよく聞きます。
でもその中身を丁寧に聞いていくと、
「条件に合う人がいない」という話より、
- 自然でいられる人がいない
- 大事にされている感じがしない
- 一緒にいて安心できる人がいない
- 自分の位置が分からなくなる
という感覚のほうが、ずっと多く出てきます。
出会いがない、というより、
「ここにいていい感じ」が持てない。
この記事では、「いい人がいない」と感じるとき、
人の心の中で何が起きているのかを整理しながら、
仏教が見ていた「人が人に惹かれる構造」から、
出会いを少し違う角度で眺めてみたいと思います。
「いい人がいない」という言葉の正体
「いい人」という言葉はとても便利で、
でもかなり曖昧です。
多くの場合それは、
- 認めてほしい
- 大切にされたい
- 否定されずにいたい
- ちゃんと関係の中にいたい
という感覚の言い換えなんじゃないでしょうか?
「いい人がいない」は、
相手の問題のようでいて、
実は自分がどこに立っているか分からない感覚を含んでいます。
だからこの悩みは、
人数や機会の問題だけでは終わりません。
人は「条件」より「心の状態」に引き寄せられる
出会いの話になると、すぐに
- 性格
- 見た目
- 年収
- 趣味
- コミュニケーション能力
といった「条件」の話になります。
もちろん現実的な要素は大切です。
でも実際に人が「一緒にいたい」と感じるかどうかは、
もっと前の層で決まっていることが多い。
それは、
この人の前で、自分は緊張しているか
それとも、少し緩んでいるか
という感覚です。
仏教は、人の行動や魅力を、
能力よりも自分の心の状態から見てきました。
仏教が見ていた、人が惹かれる三つの質
仏教では、人の成熟を「戒・定・慧」という三つで表します。
これを出会いの文脈に訳すと、とても分かりやすくなります。
安心できる人(戒)
ここでいう戒は、ルールというより、
- 不必要に人を傷つけない
- 態度が極端に変わらない
- 境界を尊重する
といったあり方です。
人は無意識に、
「この人の前で、自分は害されないか」を感じ取っています。
魅力のいちばん下の層は、安心感です。
一緒にいて楽な人(定)
定は、心が散らかりすぎていない状態。
- その場にいる
- 話をちゃんと聞いている
- 必死に好かれに来ない
- 沈黙が壊れない
こういう人のそばでは、
理由は分からなくても体が緩みます。
人は、「楽しい人」より前に、
「消耗しない人」に惹かれます。
視野が広がる人(慧)
慧は、賢さというより、
- 感情と事実を混同しない
- 極端に決めつけない
- 状況を整理できる
という理解の質です。
この要素を持つ人と話すと、
自分の世界が少し広がります。
それは安心と並ぶ、深い魅力になります。
なぜ「魅力的になろう」とするほど、出会いが重くなるのか
出会いが苦しいとき、多くの人は、
魅力を足そうとします。
評価を上げようとします。
「選ばれる自分」を作ろうとします。
でもこの状態は、
相手を見る姿勢というより、
試験を受けに行く姿勢に近くなります。
その場にいるのに、
ずっと自分をチェックしている。
人はこの緊張を、かなり敏感に感じ取ります。
安心より、合格。
関係より、証明。
ここに出会いが消耗戦になる理由があります。
仏教でいう「慈」― 人は“好き”より“害されなさ”に集まる
仏教で、愛の基礎に置かれるのは「慈」です。
慈とは、
- 害さない
- 敵を作らない
- 相手の安楽を願う
という態度。
恋愛では「好きになってもらえるか」に意識が向きますが、
人の深いところはもっと素朴で、
「この人の前で、自分は無理をしなくていいか」
「ここで、雑に扱われないか」
をずっと測っています。
人は“好意”より前に、“安全”に引き寄せられます。
出会いを変える前に、関係の“向き”を変える
出会いを考えるとき、
- よく見せる
- 魅力を足す
- 選ばれる
に向きがちですが、
仏教的に見ると、向きは逆です。
- 楽でいる
- 害さない
- その場にいる
- 操作しない
状態が先にあり、
そこから関係が生まれていく。
出会いを「獲得」から「関係」へ戻す。
それだけで、同じ場にいても、起きることの質が変わってきます。
おわりに|出会いは「作るもの」より「起きやすくなる状態」
出会いがないとき、
私たちはすぐに「自分」に答えを探します。
でも仏教は、人と人の間に起きることを、
能力より、心の状態と条件の問題として見ます。
魅力は、足した結果というより、
減った結果として現れるものです。
防衛が減る。
必死さが減る。
評価への執着が減る。
そのぶん、安心と余白が前に出る。
「いい人がいない」と感じるとき、
それは自分を責めるサインというより、
関係の向きを見直すサインかもしれません。
「静かな相談室」では、
こうした感覚を、正解を出さずに一緒に整理していく時間を大切にしています。


